大学入試における英語4技能資格の活用増と今後の受験費用のまとめ

2017/06/01

現在、英語の4技能教育(注1)を国家、産業界、学界が推し進めている。

注1)英語の4技能教育とは・・・これまで単語・文法・読解というようにリーディング中心だった教育をリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングとバランスの取れた教育にすること。
4技能教育の実施は評価基準と英語試験の変更、学習のプロセスの見直し、英語の教育年数の変更なども一緒に行われる。特に4技能の評価は従来の筆記試験では難しく、外部団体による4技能試験(TOEFL、IELTS、英検、TEAP)などの活用が急速に広がっている。(各英語 資格の比較

そのため、多くの大学の一般受験やAO・推薦受験では自大学作成の英語試験ではなく、外部団体が作成した英語4技能試験を受験生に事前に受けさせ、その結果を提出させ、入学試験の評価に取り入れ始めている。

昨今のグローバル化の社会を鑑みて、英語4技能試験を評価に取り入れる方向性自体は大きく異論は無いと思う。

4技能化試験に関して注目するべき、確かなことが3つある。

  1. 今後4技能の英語力が大学・社会で評価される時代になることは確実であり、単語・語彙・読解中心の一般受験の英語は急速に衰退する。
    そのため、リスニング、スピーキング、ライティングも考慮した総合的な英語力の強化が必要になる。同時に英語学習の方法論自体も変える必要があり、リスニング・スピーキングという音から自然に英語を学ぶ方法論が注目されるだろう。
  2. 外部団体が作成した英語4技能試験の活用と同時に大学の入学試験の多様化が広がっている。センター利用入試、AO入試、推薦入試、英語試験活用入試などである。
    これらの入試の時期は同じではなく、8月~12月に出願・選考・合否発表が出る入試が数多く存在する。これらの試験も4技能試験の結果を活用しているため、4技能の英語力を伸ばすのは早期に学習を始める方が合格率・受験費用ともにかなり有利に働く。
  3. 下の英語4技能の活用入試の事例を見てもらうと分かるが、2010年以降に4技能試験の活用入試の数は急激に多くなっている。10-20年前のような一般入試で一斉に決まる分かりやすい入試ではなくなった。各入学試験の特徴を把握し、生徒の学力、成績、志望校、特長にあった受験計画を立てる必要がある。

難関校の英語4技能の活用入試の事例

最難関大学から一般的な大学まで、一般入試からAO推薦入試まで、英語4技能が幅広く活用されている。また、最難関大学ほど求めている英語資格の格やスコアの要求が高まる傾向にある。(今回、比較のしやすさのために国公立の紹介を除くが、本質は変わらない。)

理解しておくポイントは下に2つである。

  1. 一般入試が従来の筆記試験、センター利用型に加え、英語4技能試験を活用する入試が増えていること
  2. AO入試、(自己)推薦入試などで英語4技能試験を活用する入試が増えていること

英語4技能試験を活用する一般入試は2月の個別学力試験で国語・小論文・社会・数学などの中から1〜2科目を受験する場合が多い。

分かりやすい入試の一例として上智大学の一般入学(TEAP利用型)がある。受験生は事前に英検2級から準1級の中間ほどの難易度であるTEAP試験という4技能試験を受験し、各学部が設定している基準スコアを越えれば出願できる。そして2月に行われる試験では英語の試験は課されず、国語や地理歴史・数学など各学科の指定する選択科目を受験する。TEAP試験は受験資格のみにしか利用されない。

AO入試、(自己)推薦入試では英語4技能試験を出願時に提出させ、あとは成績、面接(日本語または英語)、小論文などで決まる場合が多い。

その他の例(ごく一部)

慶應義塾大学・・・経済学部の授業を英語で学ぶPEARL入試 (TOEFL・IELTS、SATなど)、SFCのAO入試

早稲田大学・・・政治経済学部のグローバル入学試験 (各英語資格のスコア)、文化構想学部・文学部の一般入試(英語 4 技能テスト利用型)、英語学位のEdessaJCulP

上智大学・・・一般入学(TEAP利用型)公募推薦 (各英語資格のスコア)、FLA (TOEFL・IETLS、SATなど)

青山学院大学・・・英米文学科の自己推薦、地球社会共生学科 (各英語資格のスコア)

中央大学・・・入学試験詳細情報(一般入試・英語外部検定試験利用入試・センター試験利用入試)英語運用能力特別入学試験 (各英語資格のスコア)

法政大学・・・T日程入試(統一日程)、英語外部試験利用入試自己推薦 (GIS、IGESS、GBP、SCOPEなどで英語が必要)

立教大学・・・一般入試全学部日程 グローバル方式自由選抜入試、国際コース入試 (各英語試験のスコア)

明治大学・・・英語4技能試験活用方式政治経済学部のグローバル型特別入学試験(各英語試験)

数に限りがないので上記の例に留めるが、他にも秋田の国際教養大学、国際基督教大学、学習院大学、同志社大学、立命館大学とAPU、関西学院大学、関西大学など非常に多くの大学が一般入試、AO推薦入試などで英語4技能試験の結果を活用している。(参照:英語4技能試験情報サイト

さらに英語利用資格入試はまだまだ急激に増えつつある。大学の国際競争力強化や経済界の要望により、グローバル30が採択され、大学学部を国際化するための一貫である。

英語4技能化で受験費用が上がるか下がるかは一概には言えない

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物凄く簡潔に理由を言えば、英語試験の検定料の負担と、英語試験活用入試の値下げと合否結果の読みやすさや受験期の分散からくる受験校数の減少のどちらの影響が大きいかに依存するからである。

そして、受験には受験生の英語力、他の教科の学力、成績、志望校、入試形式の適正など、多くの要素が複雑に関係しており受験生によって最適な受験戦略は全く違うはずので、かかる費用も違ってくる。

また、一般受験のような一発の試験に強いタイプか、地道に努力してAO・推薦で評価されるタイプなど、その人の向き不向きもある。併願受験の数が多ければ安心して取り組める受験生もいれば、どれも第一志望以外の大学の準備は全くしたくない生徒もいる。

4技能英語の導入という側面だけ見て費用を判断するべきではない。また一般的に言って、10年以上前と入試形式が大幅に増えているので、以前と同じ感覚で大学入試を捉えると危ない。

受験の総費用の決定要因は主に3つある

受験費用は3つの要因が考えられる。最初の2つは当然であり、分かりやすい。しかし、現実には残り1つの要因も関わってくるので、受験費用の見積もり計算は複雑になる。

4技能英語の教育費用自体は受験費用に考慮しない

どういった教育を受けるかで費用は千差万別である。(従来の単語・文法・読解中心の英語でも、4技能英語でも富裕層の子供が良い教育を受けられるのは普遍である。)

英語の4技能教育となる場合、Amazon Prime Videoやオンライン英会話(DMM英会話など)を利用して格安で英語を学ぶ子供、YouTubeでひたすら英語の動画見て無料で学ぶなどする子供が出る一方で、一流のTOEFL/IELTS試験の英語教師の元で4技能を学ぶ生徒もいるだろう。

4技能教育自体の所得・地方問題についてはTOEFL iBTの大受験時代が5年以内にくる?を参考にしてほしい。

受験費用の決定要因1)4技能英語試験の総費用

英語試験の検定料の総費用=英語試験の検定料×受験回数とシンプルに計算できる。

ちなみに現在(2017年5月)のところ、

  • TOEFL iBT 235ドル (大体26,000円)
  • IELTS 25,380円
  • 英検1級 8,400円
  • 英検準1級 6,900円
  • 英検2級 5,800円
  • TEAP 15,000円

この順番に並べている理由はTOEFL、IELTSはほとんどの英語4技能試験を活用している入試で活用できるからである。また、これらの試験は難しいのである程度のスコアを取れれば、他の試験の結果もかなりの精度で予測できる。

この試験を何度受けることになるかは、その生徒の英語力に依存する。総費用は一概に計算できないが、英語力が高い受験生の方が安定して高スコアを取りやすい。結果、受験回数が抑えられるので総費用が抑えられ、見込みも立ちやすい。

例えば、TOEFLで95点近く取れれば、IETLS 7.0 (9.0満点)、英検1級、TEAP 400点満点近く取れるだろう。(注2)

TOEFL 75点ほど取れれば、IELTS 5.5、英検準1級、TEAP 320点近く取れるだろう。

注2) TOEFL、IELTS、TEAPのスコアについて

TOEFL iBT R 30点、 L 30点、 S 30点、 W 30点、Total 120点満点 (各技能の合計)

IELTS R 9.0点、L 9.0点、S 9.0点、W 9.0点 Overall 9.0点満点 (各技能の平均点)

TEAP R 100点、L 100点、S 100点、W 100点 Total 400点 (各技能の合計)

R -> リーディング、L -> リスニング、S -> スピーキング、W -> ライティング

(詳細は各英語 資格の比較を参考にしてほしい)

受験費用の決定要因2)大学入学試験の検定料

入学試験の検定料の総費用=受験の検定料×受験回数とこちらもシンプルに計算できる

一般入試の検定料の相場

従来型の一般入試は35,000円が相場である。

4技能英語の活用入試の場合、大学受験の検定料は他の受験方式の場合と異なる。一般的に言えば、従来の一般入試よりも安くなるか、併願すれば受験料が下がるという形式が多い。

最初の1学部が35,000円、併願1学部ごとに15,000-20,000円が相場である。

例えば上智大学であれば

◆TEAP 利用型で1学科につき35,000 円、2学科以上併願する場合は2 学科目以降1学科につき20,000 円

◆一般入学試験(学科別)は1 学科につき 35,000 円となっている。

法政大学も形式が似ており、併願学部は1学部ごとに15,000円である。

従来型の一般入試は35,000円が相場である。

AO・推薦入試の検定料の相場

書類の1次選考(相場10,000円)、筆記・面接などの2次選考(相場25,000円)などと分かれている入試が多く、1次選考に落ちれば、2次選考の検定料を支払う必要がない。(早稲田大学立教大学法政大学、その他多数)

2次選考まで進むことを想定すると、一般入試と同じく35,000円ほどである。

受験費用の決定要因3)合否結果の読みやすさと受験期の分散によるリスク回避

英語4技能試験は一般的な資格なので、一般受験にもAO・推薦にも使える。(もっと言えば大学や社会人になっても役に立つ。)

①AO・推薦入試が過去10年と比べて急激かつ大幅に増えてきて、選考時期が秋頃と一般入試よりも早い

②従来の一般受験と違い、英語4技能試験の結果は出願前に判明している。そのため、英語資格が選考の加点要素であれば合否の予想がしやすいし、出願要件であれば出願倍率の低下に繋がり合格しやすくなった

上記の2つの理由により併願校選択とリスク回避をしやすくなった。

結果として、英語資格を利用してAO・推薦で第一志望に合格すれば、一般受験を受ける必要がない。また、第一志望でなくとも入学候補の1つとして合格してしまえば、一般入試の受験数を絞ることができるようになった。(ただし、合格先をキープする場合、入学金はかかる)

受験計画と受験総費用をシミュレーション

受験には受験生の英語力、他の教科の学力、成績、志望校、入試形式の適正など、多くの要素が複雑に関係しており(英語で言うとintricate)、多くのシミュレーションをできるが従来型と4技能英語試験をフルに活用する場合の2つ紹介する。

シミュレーション1)従来の一般受験のみの生徒の場合(注3)

だいたい、計4~6校の受験が一般的のようである。(河合塾さんのKei-NetのHPを参照)

1校1学部の出願として単純に計算すると、検定料の相場35,000円×4~6校なので、140,000円~210,000円の出願費用になる。

これに加え、比較的相性の良いセンター試験の費用が12,000~18,000円、センター利用入試の受験料は1校あたり1万5,000円~2万円である。(交通費の費用なども考慮するならベネッセさんの解説が分かりやすい)

平均的に言えば合計で30万円くらいの総受験費用がかかっている。

(注3)もちろん、英語資格の不要なAO・推薦入試を組み合わせることもできる。ただし、英語資格がないものは比較的に誰でも出せて倍率が高いことで合否が読みにくく、さほどリスク回避にならない。また、受験できる学部も限られている。

シミュレーション2)4技能英語試験活用の入試主体の生徒の場合

①4技能英語試験の受験→②AO・推薦入試→③一般入試(英語 4 技能テスト利用型)と段階的に検討する。

段階1)4技能英語試験の受験と総費用

受験回数はその生徒の英語力次第だが一番費用の高いTOEFL 2~3回であれば52,000~78,000円。(英検であればもっと安いが、TOEFL/IELTSの方が利用範囲が一番広い)

TEAP利用入試はTEAPしか使えない場合がほとんどなので、TEAP試験1回で15,000円かかる。

(TOEFL/IELTSの受験者は英語力が高いので、TEAP試験を1回のみという想定は妥当と考える)

この場合、費用は52,000~78,000円+15,000円=67,000~93,000円になる。

もし、TOEFLやIELTSを受験せず、TEAP試験に絞る場合、2年生から3年生の冬までに2〜3回受験すると考えて、30,000円〜45,000円になる。(高校2年生から受験可能、有効期間は2年間)

従って、4技能英語試験の一般的な総費用は30,000円~93,000円の間と考えられる。

段階2)AO・推薦入試の受験と総費用

第一志望校に合格するため、またはリスク回避のために出願する。

例えば、AO・推薦入試で3校を受験する。早慶上智から1校、GMARCHから2校などである。

全て1次試験で不合格の場合、10,000円×3校で30,000円の出願費用になる。(→段階3へ)

2次選考まで進んだ場合、検定料の相場35,000円×3校なので、最大で105,000円の出願費用になる。

従って、AO・推薦入試の総費用の平均は30,000円~105,000円と考えられる。

ポイント)少なくても1校を合格する可能性は従来型の一般入試に比べて、大幅に高いし、予測しやすい。

決定要因3の繰り返しになるが、大学を出願する前に英語資格や成績などの選考材料が出揃っているので、倍率の高い・合否確率の高い大学の出願に絞れるからである。

AO・推薦で合格した大学が第一志望であれば受験終了になる。

段階3)一般入試(英語 4 技能テスト利用型)の受験と総費用

段階2で不合格だった場合や段階2で合格した大学・学部もっと行きたい大学・学部がある場合は一般入試を受験することになる。(但し、費用的には前者>後者なので、前者のみ計算する。)

段階2で不合格だった生徒の場合はシミュレーション1の生徒と同じように計4~6校の受験をするべきだろう。

同じ大学で違う学部を併願として受ける場合は初めの1学部の35,000円に加え、併願学部で20,000円×(3~5)のため95,000~135,000円の出願費用になる。

全て違う大学を受ける場合は140,000円~210,000円の出願費用になる。

4技能英語試験活用の入試主体の場合の総費用

優秀かつAO推薦に第一志望の学部がある生徒であれば、TOEFL 2回受験+TEAP 1回受験+AO推薦入試3校受験という可能性があり、52000円+15000円+105,000円で総費用が172,000円で済む。

英語力が安定せず、何度も英語試験を受ける場合を想定すると、TOEFL 3回受験+TEAP 1回受験+AO推薦入試3校受験+一般入試6校受験で93,000円+15,000円+30,000円+210,000円で348,000円という場合もあり得る。

ポイント)英語力があれば英語試験の費用も大学の受験費用もかなり抑えられ、合格しやすくなる可能性があると言うこと。英語力がなければ努力すれば良い。

改めて結論

英語4技能試験の活用と大学の入学試験の多様化の組み合わせにより、以下のことが言える。

  1. 受験費用が上がるか下がるかは一概には言えない。
  2. リスニング、スピーキング、ライティングも考慮した総合的な英語力の強化が必要になり、語学習の方法論自体も変える必要がある。リスニング・スピーキングという音から自然に英語を学ぶ方法論が注目されている。
  3. センター利用入試、AO入試、推薦入試、英語試験活用入試などである。各入試時期の分散により4技能の英語力を伸ばすのは早期に始める方が合格率・受験費用ともに有利に働く。
  4. 10-20年前のような一般入試で一斉に決まる分かりやすい入試ではなくなったので、各入学試験の特徴を把握し、生徒の学力、成績、志望校、特長にあった受験計画を立てる必要がある。