AO入試、2020年に学力試験の義務化は本当に良いことなのか?
国公私大のAO入試、学力試験も…20年度から
5/10(水)の読売新聞の報道で、文部科学省が国公私大のAO・推薦入試で学力試験を2020年度から学力を問う試験を義務付ける方針を固めたと報じている。(URL)
- 2014年度の大学入試ではAO入試の入学者は全体の8.8%、推薦入試は34.7%
- 1999年度の大学入試ではAO入試の入学者は全体の1.4%、推薦入試31.7%
この報道に対し、Yahoo!ニュースのコメント欄ではAO入試に対して否定的な意見が多い。
- 入り口を広くするんだったらアメリカみたいに出口でもしっかり選別すべき
- AOや推薦で入学しても、学力が伴わないから苦労するらしい。
AOなんて止めて、推薦枠も削った方がいい。- AO入試=縁故主義・コネ入学 でしかないから。
純粋にペーパーテストの点数のみで合否を決めることこそ、最も公平・公正なんだよ。- 何を今さら。AOが出来てから芸能人の利用が目立ち、いわゆる“アホでもオーケー”的な見方をされてきたのはずいぶん前からで、学生不足解消のため安易に門戸を広げたせいだろうに。
AO入試が特に活発になったのは2010年以降なので、このコメント欄の人たちはおそらく活用しておらず、実情を知らない方々だと思う。
確かに、伝統的に言われる”学力”という面ではAO入試の方式に懸念はある。
しかし、本来のAO入試の趣旨に良いところは沢山あり、それが一般的に理解されていないし、誤解が多い。
基本的な理解)大学入学試験の種類とAO入試の趣旨
現在、主に以下のような入試の種類が主にある
- 従来の一般入試(大学入試センター試験または大学独自の個別筆記試験)
- AO入試 (書類選考+小論文・面接など)
- 推薦入試 (出身校からの推薦+書類選考+小論文・面接など、AO入試と区別は曖昧)
- センター試験利用入試 (センター試験の結果のみ)
- 外部団体の英語資格(TOEFL/IELTS/英検/TOEIC/TEAP)の活用入試
(英語資格+個別筆記試験やAO入試と組み合わせ)
WikipediaによるとAO入試とは
- 出願者自身の人物像を学校側の求める学生像(アドミッション・ポリシー)と照らし合わせて合否を決める入試方法
- 内申書、活動報告書、学習計画書、志望理由書、面接、小論文などにより出願者の個性や適性に対して多面的な評価を行う
- 1990年慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC 2学部)が、他に先駆けて導入した。
- 日本数学オリンピックや各種科学コンテスト、弁論大会等、所定のコンテストで優秀な成績を収めた受験生に対する入学枠を用意している大学もある
要するに、従来の一般入試では測れなかった素質を測り、大学に多様な人材を増やすことで活性化する狙いがある。
そもそも欧米式の大学入試は書類選考(+面接)が主流であり、そこを見倣って取り入れた訳である。
詳しいAO入試・推薦入試の評価基準は何を準備すればいいかわからない人のための AO入試・推薦入試のオキテ55 を参考にして欲しい。分かりやすく、そして具体的なAO・推薦入試の実態が紹介されている。
なぜ、AO・推薦入試に価値があるのか〜これからの社会に必要な人材の評価〜
・勉強できるからって仕事できるとは限らない・勉強できなくても仕事できる人はいる
昔からよく言われている言葉である。
それでも、20世紀後半までの単純労働が主だった社会では与えられた課題を速く、正確に解決する人材に価値があった。
しかし、21世紀の情報化社会、グローバル化社会において、単純労働はコンピュータ(+A.I.)、途上国の安い労働力に変えられた。
今後の社会を発展させていくにはイノベーションを起こせる以下のような人材が求められるようになった。
- 創造性のある人材
- 計画・目標を自分で立てて、自発的に挑戦できる人材
- 課題の発見、分析、解決をできる人材
- リーダーシップを取れる人材
- コミュニケーションを取れる人材
(参考:これからの時代に求められる資質・能力と、それを培う教育、教師の在り方について、平成27年5月14日、教育再生実行会議)
AO入試は筆記試験では測れない優秀さや独自性を持つ人材を評価している
先ほどの表現を再解釈すると、以下のようにも言える
- 筆記試験で優秀だからって社会・大学で活躍できるとは限らない
- 筆記試験で優秀でなくても社会・大学で活躍できる人もいる
従来の一般入試では課題を速く正確に解決できる人材:理解力、処理力、暗記力を測っていた。
下の図で言うところの優秀さの一部分を測っていた訳である。これは技術者(=作業する人)を養成している。
しかし、別の側面の優秀さもあり
- 継続的な勤勉さ
- 外国語の高い操作能力
- 既存の学術以外の分野(コンピュータ、国際問題の理解)の優位性
- 生徒の自己分析能力、客観的分析力
- 自己表現能力・アピール力
なども優秀であると言える。
しかし、そういった優秀な人材は従来の筆記試験では評価できない可能性が十分にある。
- 勤勉だが緊張症で一発勝負の筆記に弱い生徒
- (海外にいたなど)何らかの事情で学校の授業を受けられなかった生徒
- (異常な記憶力など)一般的な人と違い、障害的であると同時に天才的な能力も有する生徒
AO・推薦入試では学校の成績の他に上記のような別の側面から優秀な生徒を高く評価する。
- 日本数学オリンピック
- 文学賞
- (経済や社会問題の)小論文コンテスト
- 高校生科学技術チャレンジ
- 日本情報オリンピック
- 実用フランス語技能検定試験
- 高校生バイオサミット
- 模擬国連
(参照:SFCのAOのHP)
また、小論文や面接を実施することで、生徒の自己分析能力、客観的分析力、自己表現能力・アピール力を見ようとしている。
AO・推薦入試の真価は独自性を評価するところ
新しいアイディアを作り出す、創造力のある人材は以下のような素質を一部に持つ。
- 新しいことに取り組む (好奇心)
- 普通とは違ったことをする
- 自発的に行動する (目標や計画性)
- 意見交換を活発にする (コミュニケーションやリーダーシップ)
- 一つの物事を突き詰めて考えることができる
他の人とは違った考え方経験・価値観を持った独自性のある人材である。
違う人種、違う文化、違う歴史、違う教育、違う生活で人生を過ごしてきた多様な人材をアクセンチュアやグーグルなどの世界的な企業も重用している。
状況を明確に提示され、安定した環境で課題を速く正確に解決する人材とは対局にあるような人材像とも言える。
生徒の独自性は筆記試験による一様の評価が難しいので、AO・推薦入試の評価方法に価値がある訳である。
- 課外活動、資格、賞などの活動実績
- 学習計画書 (目標と計画)
- 志望理由書 (過去と将来の分析)
- 面接
などにより出願者の個性や適性を評価する。
そして、革新とは独自性をもってしたアイディアと優秀な能力による技術が融合して実現すると考えることができる。
ちなみに???は自分で想像してみてほしい。
AO・推薦入試に学力試験を義務化するとどうなるのか
実は私大学の一部の理系の学部は個別学力試験を実施しているし、国公立の多くはセンター試験や個別学力試験を実施している。(東京大学や東京工業大学)
特に国公立のAO・推薦入試は他の国公立大学と併願不可、合格時期も一般入試と変わらないなど、制約が厳しい。
AO・推薦を受ける意味がなくなり、一般受験だけに集中するようになる
AO・推薦では主体的に日々の勉強、自己分析、将来の計画、課外活動、資格を積み上げることで、志望理由書、面接準備、活動報告書などで良いパフォーマンスを発揮できる。
しかし、それだけに多大な労力が必要である。
それに加え、一般受験と同じように国語、社会、理科、数学、英語などの受験する必要があるのであれば、わざわざAO・推薦の準備をせずに、負担の少ない一般受験だけに絞るようになる。
事実、東大生を多く輩出している高校で東大の推薦入試を受ける生徒は多くない
他の側面で優秀な人材や独自性の強い人材が評価されない、育たない
前述したように、従来の筆記試験では一般的な処理能力に難を持っていたり、緊張症などの精神的な問題により不合格になるが、他の側面で非常に優秀であったり、他者とは違う独自性を持つ生徒がいる。
AO・推薦入試でそういった人材を積極的に取り入れようとしていたにも関わらず、学力試験を課すことで再び除外することになってしまう。
- Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ
- Apple創業者のスティーブ・ジョブズ
- Oculus Rift創業者のPalmer Luckey
上記の人たちのような優秀さ・独自性を日本型の筆記試験で測るのは難しい。
筆者の意見:一般入試とAO・推薦入試は別々であり続ければ良い
筆記試験を課す従来の一般入試では作業の正確性・速さに強い生徒を評価し、
AO・推薦入試では学校教育では測りにくい優秀さや独自性を持つ生徒を評価すれば良い。
そういった違うタイプの生徒が社会や大学のキャンパスに共存することで、化学反応が起こり、組織が活性化し、革新を起こせると筆者は思う。
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